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(Press Release)世界初、ゴムー黄銅接着界面の劣化抑制機構をナノレベルで解明 —タイヤの安全性・耐久性向上に向けた材料設計に道筋—
【多元研研究者情報】 電子回折・分光計測研究分野 准教授 佐藤庸平
高分子物理化学研究分野 准教授 宮田智衆
国立大学法人東北大学
横浜ゴム株式会社
発表のポイント
- 自動車の安全走行には、タイヤの耐久性を担うスチールコードとゴムの強固な接着が極めて重要ですが、接着性向上と劣化抑制のため添加される有機酸コバルト(注1)の微視的な作用機構はこれまで未解明でした。
- 走査透過電子顕微鏡法(注2)などで直接観察することにより、有機酸コバルトがスチールコードの黄銅(注3)めっき表面に硫化コバルト(注4)ナノ粒子(注5)として析出し、黄銅成分のゴム内部への溶出を防ぐバリア層として機能していることを初めて解明しました。
- タイヤの耐久性・安全性向上に向けた材料設計指針を与えるとともに、環境規制や供給リスクの懸念がある有機酸コバルトの代替物質開発を加速すると期待されます。
概要
タイヤを補強するスチールコードとゴムの接着性は、タイヤの耐久性や安全性にとって極めて重要です。これまで接着性向上と劣化抑制を目的に有機酸コバルトが広く添加されてきましたが、その微視的な作用機構は未解明でした。
東北大学多元物質科学研究所の佐藤庸平准教授、宮田智衆准教授と横浜ゴム株式会社の清水克典主幹による共同研究グループは、走査透過電子顕微鏡法などを用いたナノスケール分析により、有機酸コバルトがゴム中の硫黄と反応して硫化コバルトのナノ粒子として接着界面に析出し、スチールコードの黄銅めっきの溶出や空洞化を抑制するバリア層として働いていることを直接観察により初めて明らかにしました。本成果は、環境規制や供給リスクの懸念があるコバルトの代替物質探索を加速するとともに、より安全性と耐久性に優れた次世代タイヤの設計指針の構築につながると期待されます。
本研究成果は、2026年6月5日付けで、学術誌 Rubber Chemistry and Technologyにオンライン掲載されました。
【詳細な説明】
研究の背景
自動車や大型商用車(トラック・バス)、オフハイウェイ車(農業機械・建設車両など)などに使用されるタイヤには、走行時の耐久性や操縦安定性のためスチールコードが埋め込まれています。このスチールコードとタイヤのゴムの間で剥離が起こるとタイヤの損傷や破裂につながるため、極めて高い接着性と長期的な耐劣化性が要求されます。スチールコードの表面には黄銅(銅と亜鉛の合金)めっきが施されており、加硫(注6)工程においてこの黄銅めっきがゴムに配合された硫黄と反応して硫化銅と硫化亜鉛からなる複雑な接着界面層を形成することで、ゴムとの強固な接着が実現されています。
従来、ゴムに有機酸コバルトを添加すると接着界面層の過剰な成長や高温高湿環境下での接着性の低下が抑制されることが知られており、タイヤ用ゴムへの添加が広く普及してきました。しかしながら、有機酸コバルトは長期的にはゴムの酸化による劣化を促進させる「金属害」を引き起こしタイヤ全体の耐久性を損なう要因となるというジレンマを抱えていました。さらに、コバルトは環境・健康面への懸念が指摘され、供給リスクの高い希少資源であることから、使用量の最適化や代替物質の開発が求められています。こうした材料設計の実現には、有機酸コバルトが接着界面においてどのような状態でいかなるメカニズムで機能しているのかをナノスケールで理解することが不可欠ですが、その詳細はこれまで明らかにされていませんでした。
今回の取り組み
本共同研究グループは、代表的な有機酸コバルトであるステアリン酸コバルトを添加した天然ゴムに黄銅めっきスチールコードを埋め込み加硫接着した試料を作製し、走査透過電子顕微鏡法を基盤としたいくつかの観察・分析手法によりゴムと黄銅の接着界面構造を詳細に解析しました。
その結果、加硫後の接着界面にコバルトが高濃度で局在している様子を世界で初めて直接観察することに成功しました(図1)。さらに、コバルトが2価の硫化コバルトのナノ粒子として存在することも明らかにしました。この硫化コバルトナノ粒子の空間分布と接着界面層の厚さの関係を定量的に評価したところ、硫化コバルトナノ粒子が黄銅からゴムへの銅と亜鉛の溶出を抑制し、その結果として黄銅内部での空隙形成を抑えるバリア層として機能していることがわかりました。

図1. 有機酸コバルトを添加したゴムと黄銅めっきスチールコードの接着界面の走査透過電子顕微鏡像(白黒表示)とコバルト分布(ピンク表示)。
さらに、同一試料を高温高湿環境下で劣化させた後に接着界面を分析したところ、主として硫化コバルトのバリア層が疎な領域から銅と亜鉛がゴム内部へ溶出し、黄銅内部の空隙が拡大することがわかりました(図2)。先行研究から、黄銅内部の空隙はき裂の発生起点や進展経路となることがわかっており、バリア層形成による空隙拡大の抑制が、有機酸コバルト添加によりゴムと黄銅めっきスチールコードの界面の接着性や耐劣化性が向上する微視的なメカニズムであると言えます。

図2.高温高湿環境下で劣化処理したゴム-黄銅接着界面の走査透過電子顕微鏡像(白黒表示)とコバルト分布(ピンク表示)。劣化した接着界面では、主として硫化コバルトのバリア層が疎な領域を通じて銅と亜鉛の溶出が起こり、黄銅内部の空隙が拡大した様子が観察されている。
今後の展開
本研究により、長年にわたり未解明であった有機酸コバルトの添加によるゴム-黄銅めっきスチールコード界面の接着性・耐劣化性向上機構がナノスケールで初めて明らかになりました。有機酸コバルトが接着界面で硫化コバルトのバリア層を形成するという知見は、環境負荷や供給リスクの少ない代替物質の開発を加速し、安全性にも寄与する次世代の高耐久性タイヤの実現につながると期待されます。
謝辞
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(助成番号:JP23H02017, JP24K01153)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)(助成番号:JPMJCR25S2)、および東北大学ソフトマテリアル研究センター(Tohoku AIMcS)の支援を受けて実施されました。
用語説明
注1.有機酸コバルト:ステアリン酸やナフテン酸などの有機酸とコバルトが結合した有機金属塩の総称。
注2.走査透過電子顕微鏡法:ナノメートル以下に極細く絞った電子線を試料に照射・走査し、試料を透過・散乱した電子を検出して、原子~ナノスケールの超高分解能で内部組織を観察・分析する手法。エネルギー分散型X線分光法(注7)や電子エネルギー損失分光法(注8)と組み合わせることで、元素種や化学状態の分析やマッピングも可能である。
注3.黄銅:銅と亜鉛の合金。スチールコード表面へのめっき材料として用いられており、加硫工程において硫黄と反応することでゴムとの強固な接着界面層を形成する。
注4.硫化コバルト:コバルトと硫黄からなる化合物。
注5.ナノ粒子:直径がナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)オーダーの微粒子。
注6.加硫:生ゴムに硫黄などの架橋剤を配合して加熱・反応させることで、ゴム分子間に架橋構造を形成させる工程。加硫により、ゴムは弾性・強度・耐久性が大幅に向上する。
注7.エネルギー分散型X線分光法:電子線を照射した際に試料から発生する特有のX線(特性X線)のエネルギーを測定することで、試料中の元素の種類やその空間的な分布(元素マップ)を分析する手法。
注8.電子エネルギー損失分光法:透過電子が試料内の原子や電子と相互作用する際に失ったエネルギーを分光測定することで、微小領域における元素の電子状態、原子価(結合状態)を詳細に解析する手法。
論文情報
“Nanoscale distribution and role of cobalt at the interface between brass-coated steel wire and rubber”
Yohei K. Sato, Tomohiro Miyata*, Katsunori Shimizu*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 宮田智衆、横浜ゴム株式会社 主幹 清水克典(工学博士)
Rubber Chemistry and Technology
DOI:10.5254/rct.25.00050
🔗 プレスリリース本文(PDF)
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
准教授 宮田 智衆
TEL: 022-217-5329
Email: tomohiro.miyata.d7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
横浜ゴム株式会社 広報室
TEL: 0463-63-0414
Email: yinfo*y-yokohama.com(*を@に置き換えてください)



