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[Press Release] 世界初!材料系・生命系二刀流AI制御の自動データ収集システムを実装したクライオ電子顕微鏡を共用開始 ー次世代放射光との相補利用で硬い材料から柔らかい材料までを可視化 ー
発表のポイント
- 東北大学青葉山新キャンパスに建設中の次世代放射光施設とクライオ電子顕微鏡との相補利用で硬い材料から柔らかい材料までを可視化
- AI制御の自動データ収集システムを実装したクライオ電子顕微鏡の共用を世界で初めて開始
- クライオ電子顕微鏡を従来のタンパク質だけではなく、有機材料や有機・無機ハイブリッド材料(注1)へも適用する二刀流
概要
現在、東北大学青葉山新キャンパスに建設中の次世代放射光施設(注2)は、いわば「巨大な顕微鏡」で、ナノメータの分解能で様々な物質の機能を解析することができますが、この次世代放射光施設をもってしても、タンパク質、有機薄膜、ポリマー、ハイブリッド材料等の中の原子の配列をはっきりと分析・測定するためには、ミクロンサイズ程度の大きさの結晶が必要になります。
東北大学多元物質科学研究所では、次世代放射光施設では困難な部分を補完するために、「クライオ電子顕微鏡(注3)」を新規に大学として導入し、2022年6月から学内外に共用を開始しました。
クライオ電子顕微鏡は、東北大学としては2台目ですが、今回新たに導入した顕微鏡は、クライオ電子顕微鏡のために理化学研究所と東北大学が独自開発した、AI制御でデータの自動測定を可能とするソフトウェア「yoneoLocr」(注4)を装備した装置であり、共用されるのは世界で初めてです。AIでデータ測定を行える世界で唯一のシステム構成になります。
また、この装置は、タンパク質のみならず、有機材料、有機・無機ハイブリッド材料への応用を目指した生命系・材料系二刀流の装置であり、世界初の試みです。
これにより、東北大学では硬い材料から柔らかい材料までを測定・可視化し、学術研究のみならず産業界での利用により、さまざまな技術革新が期待されます。
詳細な説明
<次世代放射光施設との相補利用>
現在、東北大学青葉山新キャンパスに建設中であり、2023年12月にファーストビームが予定されている、次世代放射光施設(愛称ナノテラス)は、いわば巨大な顕微鏡ですが、この次世代放射光施設をもってしても、結晶にならないタンパク質分子の一つ一つを映像として捉えたりすることはできません。また、結晶内の原子配列、電子密度を可視化することはできますが、その場合、ミクロンサイズの結晶が必要になってしまいます。その計測は、電子ビームを用いれば可能となります。
そこで、次世代放射光施設と連携したワンストップソリューションを目的として、東北大学多元物質科学研究所は、計測インフラの整備に乗り出しました(図1)。その理由は、多元物質科学研究所の前身と深くかかわっています(注5)。
図1 放射光(X線)と電子顕微鏡(電子線)の相互補完
<AI制御の自動データ収集システムを実装したクライオ電子顕微鏡を世界で初めて共用開始>
クライオ電子顕微鏡を用いた従来の「単粒子解析」(注6)や、「電子線三次元結晶構造解析(注7)において、半自動で測定できるものの失敗も多く、スループットの向上が課題でした。多元物質科学研究所 米倉功治教授(兼 理化学研究所放射光科学研究センター生体機構研究グループ グループディレクター)が開発した「yoneoLocr」は、AI技術であるディープラーニングを用いて、試料形状の識別やデータの質を判定しながら電子顕微鏡をコントロールします。人間の操作を倣うようにAIに学習させたことで、単粒子解析や電子回折データの自動測定における失敗を皆無とし、人間が監視しなくとも高品質なデータの自動測定ができます。
クライオ電子顕微鏡では、大量のデータを一晩から数日かけて取得することが必要です。これまで、難しい試料では、人間が半日から場合によっては数日かけて撮影を調整する必要がありました。AI測定で、人間の操作する時間は、10-30分程度に短縮できます。
東北大学多元物質科学研究所では、6月1日から学内外でこの装置の共用を開始しました。(注8)(図2)
<世界で初めての二刀流装置>
従来、クライオ電子顕微鏡はタンパク質の構造研究に限定されていましたが、本装置は、有機微結晶、有機・無機ハイブリッド材料など、生命系以外のマテリアル測定にも適した構成となっています。
これにより、次世代放射光施設完成後は、東北大学で見えないものはない、硬い材料から柔らかい材料までが見えるようになります。
<期待される効果>
近年、クライオ電子顕微鏡の単粒子解析と微小結晶の電子線三次元結晶構造解析は大きく注目されています。後者は生命科学に留まらず、合成化学、有機材料、材料科学などでも利用が期待される技術です。今回導入したAIソフトウェアとクライオ電子顕微鏡技術の組み合わせにより、今後、幅広い材料分野での応用研究が期待されます。
用語の説明
注1 有機材料や有機・無機ハイブリッド材料
界面活性剤・コロイド・ゲル・油脂・結晶性プラスチックなどの材料
注2 次世代放射光施設
次世代放射光施設は、軟X線領域で、大型放射光施設SPring-8の100倍の高輝度性と高コヒーレンス性という最先端の光源性能を有するため、軽元素や遷移金属の化学状態および不均一な材料の機能を10 nmの分解能で可視化することができる。その活用範囲は、触媒材料、磁性・スピントロニクス材料、高分子材料など材料分野はもちろん、工学、理学、農学、医学など広範な学術と産業分野に及ぶ。2019年度より東北大学青葉山新キャンパスにて次世代放射光施設の整備が開始され、2023年度のファーストビームを目指している。
注3 クライオ電子顕微鏡
タンパク質などの生体分子を、水溶液中の生理的な環境に近い状態での観察と構造解析を可能とするために開発された電子顕微鏡。試料を含む水溶液を急速凍結し、アモルファス(非晶質、ガラス状)な薄い氷中に生体分子を閉じ込め、液体窒素(-196℃以下)を使った冷却下で観察する。冷却することで電子線の照射による試料の損傷を大幅に低減できる。液体窒素冷却下もしくはそれ以下の温度での電子顕微鏡観察や、その装置自体のこともクライオ電子顕微鏡と称する。2017年に、この装置を用いたタンパク質構造解析技術の開発に対してノーベル化学賞が贈られた。
注4 「yoneoLocr」
AI技術であるディープラーニングを利用し、試料形状やデータの質を自動判定し、電子顕微鏡をコントロールしながら、単粒子解析と微小結晶からの電子回折データの自動測定を実現するソフトウェア。これを用いることで、撮影の失敗がなくなり、人間の監視を必要とせずに高品質なデータの自動測定が実現できる。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/09/press20210917-01-EM.html
注5 多元物質科学研究所
2001年に、前身である1941年開所の選鉱製錬研究所(後の素材工学研究所)、1943年開所の科学計測研究所、1944年開所の非水溶液化学研究所(後の反応化学研究所)を改組して設立。その中の科学計測研究所では、設立当初から電子顕微鏡の開発研究や応用技術の研究が脈々と行われてきた。多元物質科学研究所となってからも、新たな電子顕微鏡計測技術の社会実装に成功している。ちなみに、ノーベル賞候補と言われるカーボンナノチューブの発見者である飯島澄男先生は、この科学計測研究所で電子顕微鏡の技術習得を行った。
注6 単粒子解析
タンパク質溶液を急速凍結した試料を電子顕微鏡で撮影し、得られた数多くの二次元分子像をコンピュータ中で3次元再構成する技術。放射光での構造解析と異なり、結晶を必要とせず、生理的な溶液環境下のタンパク質の立体構造を明らかにできることから、近年急速に利用が広がっている。技術革新によって空間分解能が原子レベルへ向上したことにより、2017年のノーベル化学賞を受けた。ただし、得られる像はコントラストが悪く、ある程度大きな分子量を持つタンパク質やその複合体に対して用いることが適している。
注7 電子線三次元結晶構造解析
薬剤や機能性材料などの分子の非常に微小な結晶から、原子の配置を詳細に決定できる手法。放射光では解析できない微小な結晶でも解析できる。この手法では、結晶の回折パターンを多数測定する際に、単粒子解析と同様に試料位置合わせの失敗や、撮影に適する試料を探すのに時間がかかり、効率的・効果的なデータ収集が課題であった。この問題を解決したのが、独自開発したAI自動測定システムである。
注8 クライオ電子顕微鏡の利用に係るお問い合わせ先
東北大学多元物質科学研究所 クライオ電子顕微鏡受付
E-mail: tagen-cryo*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
※本文の一部を修正し、図1を差替えました(令和4年8月18日)。
関連リンク:
クライオ電子顕微鏡の披露式を開催しました(2022.06.23、東北大学ウェブサイト)
お問い合わせ
(クライオ電子顕微鏡の利用に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 クライオ電子顕微鏡受付 濵口、佐藤、海原
Email: tagen-cryo*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学テクニカルサポートセンター
クライオ透過電子顕微鏡装置(東北大学テクニカルサポートセンターウェブサイト)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
総務課 江口、江崎
電話:022-217-5202
E-mail:tagen-soumu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)