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[Press Release] クライオ電子顕微鏡を用いた口紅本来の微視的構造の観察方法を開発
株式会社コーセー(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小林 一俊)は東北大学 多元物質科学研究所 ソフトマテリアル研究拠点 陣内浩司教授らとの共同研究により、クライオ電子顕微鏡を用いてスティック型口紅の微視的構造を、成分の欠損や構造変化をさせることなく観察する方法を開発しました。油性試料をクライオ電子顕微鏡で観察できた報告は稀なことであり、この技術は口紅本来の微視的構造を可視化できることから、製剤開発や品質保証に有用となります。本研究成果の一部は、2023年12月に第1回 日本化粧品技術者会(SCCJ)学術大会にて発表しました。
図1. クライオ電子顕微鏡による口紅本来の構造(a)とその拡大像(b)
図2. 口紅の従来の電子顕微鏡像(観察のため、液状油の除去が必要)
研究の背景
口紅は唇を彩り、口元や表情を魅力的に見せることができる代表的なメイクアップ化粧品のひとつです。近年では色だけでなく、光沢感、濡れ感などの質感を含めて多様化し、落ちない口紅など機能性を付与した商品も数多く販売されています。
その成分や構造に目を向けると、例えばスティック型口紅はワックスや液状油のような油性のベースに、色を付ける顔料や輝きを演出するパールなどを練り込んで作られていることが一般的です。口紅の硬さはこのワックスの種類と構造に依存しており、使用感や製剤としての安定性にも大きく関係していると考えられています。この微視的な構造を分析するためには解像度が高い電子顕微鏡が用いられますが、従来の観察方法では真空状態が求められるため、前処理で液状油を取り除く必要があり、口紅本来の構造を観察することができませんでした(図2)。
そこで我々は液状油部分も含めた口紅本来の構造を観察すべく、クライオ電子顕微鏡に着目しました。これは-196℃などの極低温にすることで水分などの真空で揮発する成分を除かずとも試料を観察できる技術です。水分を多く含む生体試料を本来の構造を保ったまま観察できるなど有用性が高く、2017年にはノーベル化学賞を受賞しています。一方で口紅のような、ワックスや液状油のような油分を主成分とする試料での適用例はほとんどありませんでした。そこで本研究グループはクライオ電子顕微鏡の技術を応用して、口紅本来の微視的構造の分析に取り組みました。
クライオ電子顕微鏡による口紅本来の微視的構造の観察
検討のため、ワックスと液状油のみで単純な処方の口紅を作成し、これまでの水を含む試料を観察するクライオ電子顕微鏡の条件で観察を試みました。いくつかの観察条件を検討しましたが、いずれも電子線による試料への熱ダメージが発生し、明瞭な観察像を得ることができませんでした。そこで油性試料であることをふまえて条件検討を重ねた結果、熱ダメージを抑え、明瞭に観察できる条件を見つけ出すことに成功しました。
こうして得られた口紅本来の微視的構造(図1)を観察すると、例えば、ワックス部分で縞状の構造が確認できました(図1b)。これは口紅内でもワックス同士で結晶構造を形成していると考えられ、これまでこの分野で仮説として考えられてきたことの証拠のひとつとなります。これは前処理による成分除去や構造変化を生じることがない、クライオ電子顕微鏡による観察を口紅に適用できたからこその成果といえます。
口紅に顔料を加えたときの構造変化の観察
次に、口紅には欠かせない顔料を加えた口紅のクライオ電子顕微鏡での観察を行いました。顔料は彩りを与える反面、過剰に加えると口紅の硬さが低下し、スティック形状を保てなくなったり、使用時に簡単に崩れたりすることが知られており、配合量にはバランスが求められます。
観察の結果、顔料を加えることでワックス部分の構造が細かく分岐し、また厚みが薄くなることが分かりました(図3)。このことから、顔料によりワックスの構造が変化し、脆弱になることで口紅全体の硬さが低下する可能性が示唆されました。今後このような構造変化を制御する方法が見つかれば、これまで実現できなかった色彩や形状の口紅の開発が可能になることが期待できます。
図3. クライオ電子顕微鏡による顔料を加えた口紅の構造(a)とその拡大像(b)
今後の展望
本研究ではクライオ電子顕微鏡の技術を口紅の観察に適用する条件を見出すことで、その本来の構造を観察する方法を開発することができました。これにより、構造という面から口紅の品質を高める手段を提供できる可能性があります。また、口紅以外の製剤に適用することで、応用の幅を拡げていくことも期待できます。これからもお客さまの求める商品を叶えるものづくりや、それを支える技術開発を継続していきます。
東北大学ソフトマテリアル研究拠点について
最新鋭の電子顕微鏡を主軸とした「計測」とAIやシミュレーション技術などの「計算」を融合することで、ソフトマテリアル材料研究を推し進め、新たな設計・解析ソリューションを社会に展開しています。
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問い合わせ先
研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 陣内 浩司(じんない ひろし)
TEL:022-217-5329
E-mail:hiroshi.jinnai.d4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 濵口 祐(はまぐち たすく)
TEL:022-217-5381
E-mail:tasuku.hamaguchi.c3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
※12/20までの問い合わせは濵口までお願いいたします。
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
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